熱電対・補償導線

1.熱電対の測定原理

 熱電対の原理・理論は一人の人間により一度に確立されたものでは無い。ASTM STP470 によると、ガルバニの2本の異なる金属の接触によって蛙の足にけいれんが生じると言う実験結果から、異なった金属が間に溶液を介して接触することにより電 位が生じると言うことを1800年に結論づけた、Alessandro Volta が熱電対の原理の先駆者であろうとしている。その他、熱電対の理論の確立に貢献した研究者として、Thomas Johann Seebeck (1821:ゼーベック効果発見)、Jean Charles Althanase Peltier (1834:ペルティエ効果発見)、William Thomson -後の Lord Kelvin (1852:ジュール・トムソン効果発見) らの名前を掲げている。この中で最も有名になっているのが以下の理論である。
 種類の異なる2本の均質な導体A,Bの両端を電気的に接続して図-1の様な閉回路を作り、この両端に温度差T1、T2を与えると回路中に電流が流れる。

熱電対回路図の画像 図-1 熱電対回路図

 この現象は一般にゼーベック効果と呼ばれ、1821年にT.J.Seebeck がビスマス-銅とビスマス-アンチモンの組み合わせで発見したものとされている。実際には、セーベック効果とはペルティエ効果とトムソン効果の組合わさった結果となることが後日の研究の結果判明している。これらの詳細に関してはここでは触れないが、別途多くの文献が発行されているのでそちらを参照されたい。

 この回路に電流を起こさせる電力を熱起電力 (Thermoelectromotive force)と呼び、その極性と大きさは2種類の導体の材質(AとB)と両端の接合点の温度(T1とT2)のみに よって定まることが確認されている。従って、導体の太さや長さ、両端部分以外の温度には無関係である。

 通常は温度を測定する側とは反対側になる端部を一定温度(0℃)に保ち、熱起電力を測定することであらかじめ分かっている熱起電力と温度の関係から測定対象の温度を知る。この測定する側の接点を測温接点(Measuring junction)または熱接点(Hot junction)と呼び、反対側の一定温度に保つ接点を基準接点(Reference junction)または冷接点(Cold junction)と呼ぶ。

 実際に熱電対を温度センサとして使用する場合は、測温接点側を測定箇所に設置し、反対側を電圧計に接続することになる。但し、そのままでは基準接点温度が一定にならないため、基準接点となる部分を氷水の中に入れて0℃とするか、温度補償回路の内蔵された計測器を使用する。図-2を参照。

熱電対と基準接点の画像 図-2 熱電対と基準接点

 熱電対に補償導線を接続して用いる場合、接続部を「補償接点」と呼ぶ。通常は補償接点温度と計器端子温度が等しいため、補償導線の誤差は熱電対の 特性に含まれない。従って、補償接点温度が計器端子温度より高くなると、補償導線の誤差が熱電対の特性に加算されるので、注意が必要である。

2.熱電対回路の基本法則

(1)均質回路の法則
 熱電対の回路でA,Bの素線が均質な材料で構成されているならば、回路の途中にt2、t3の様な局部的な加熱部があっても、熱起電力は両接点の温度t1およびt0によってのみ決まる。
 逆に、不均質な部分が存在し、そこに温度勾配があれば、均質な場合と異なる熱起電力が発生する。

均質回路.jpg 図-3 均質回路の法則

(2)中間金属の法則
 熱電対の回路でA,Bの素線が均質な材料で構成されているならば、回路の途中に第3の金属Cが挿 入されても両端t2、t3の温度が等しければ、熱起電力はt1およびt0によってのみ決まる。
 実際の使用例では、接続箱の中の端子は銅合金を用いているが、接続点間距離が短く、温度差が生じないため、誤差を生じない。

中間金属.jpg 図-4 中間金属の法則

(3)中間温度の法則
 下図において、V1、V2が同じ種類の熱電対であり、両接点の温度がt1、t2の時の熱起電力がV1で、t2、t0の時の熱起電力がV2であるならば、温度がt1、t0の時の熱起電力はVABである。
 実際の使用例では、現場設置の熱電対とその端子箱から補償導線を接続して計測する例、あるいは計算で熱起電力を求める場合が相当する。
 補償導線を接続する場合、特性が同等であるので、接続して計測することは可能であるが、全く同一の特性では無いため接続温度が高くなると補償導線の誤差が加算される。

中間温度.jpg 図-5 中間温度の法則

【事例】
 外径の細いシース熱電対では、スリーブ下50mm程度の製品が存在する。しかし、この製品を100℃以上の温度で使用、或いは温度検査を行う場合、予想外の誤差が生じることがある。
【要因】
 試験槽に挿入した時に、試験槽液面からの放射熱によりスリーブ部分(補償接点)が過熱、補償導線の誤差が加算される。
【対策】
 挿入長が短い製品は検査可能な長さで製作し、中間検査後に規定長さに加工している。そのため、再検査が出来ないケースがあるので注意が必要。正確な温度測定や再検査が必要な場合は、シース長が150mm以上必要。

短いシース熱電対校正.jpg 図-6 試験槽