保護管式熱電対・被覆熱電対
保護管式熱電対は古くから使われている熱電対で、測定対象の雰囲気から熱電対の素線を保護するために考えられた構造です。現在は、シース形熱電対に取って代わられましたが、白金系の貴金属熱電対の場合は、シース形では製作が困難で、かつコスト面での制約から保護管式が圧倒的に多く使用されています。

熱電対の原理
熱電対とは、種類の異なった2本の金属線の両端を接続したもので、この両端の接点に温度差が生じたとき、この閉回路に熱起電力が発生し、回路に電流が流れます。この熱起電力の大きさとその極性は、両端の温度と2本の金属線の組み合わせによって決まり、金属線の太さや長さには影響されません。従って、特定の熱電対の各温度における熱起電力をあらかじめ知っておくことで温度を測定することが出来ます。この各種熱電対の温度と熱起電力の特性は熱起電力表としてJIS やIEC等で規格化され、世界的に標準化されています。
この熱電対は温度測定範囲、測定箇所の状況、必要な精度などによって適当な素線を選ぶことは言うまでもなく、長時間連続使用しても常に同じ性能をもつものでなければなりません。弊社ではJIS規格のB、R、S、N、K、E、JおよびT熱電対を製作していますが、その他にもW-5Re/W-26Re熱電対なども製作していますので、使用目的に合ったものを選んでご採用ください。
熱電対の構造
熱電対は実用上、熱電対素線、保護管、端子箱、絶縁碍子その他必要な取付金具などから構成されます。
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1.熱電対素線
熱電対素線の種類には次頁のものがあり、素線先端は溶接して測温接点を作ります。
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2.保護管
熱電対素線や絶縁碍子を周囲の環境から保護するもので、これに取付金具および端子箱などを付けます。保護管は測温箇所によって、非常に過酷な使用条件がともないます。使用温度、雰囲気、目的等に適した材料や形状を選定する必要があります。
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3.端子箱および端子板
補償導線と熱電対とを接続する端子箱で、防滴形のEL形(アルミダイカスト製)の他、使用目的に適した材質、形状のものを用意しております。
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4.絶縁碍子
熱電対線の線間および保護管との絶縁、短絡防止に使用するもので、JIS2種の絶縁碍子で絶縁しています。
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5.取付金具
熱電対を測定箇所に取り付けるため保護管に取付金具を設けます。
上記の他、保護管を用いずに使用するタイプもあります。EXE,EXSといった被覆熱電対線の先端に熱接点を設けるのみで簡易計測に最適な熱電対が出来ます。特にEXSタイプはFEP等のテフロン系の樹脂を使用しており熱接点部分も同材質で成形することで絶縁タイプも出来ます。
熱電対の種類 JIS C1602
種類 | 特長 | |
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記号 | 構成材料 | |
B | Pt-30Rh/Pt-6Rh | 白金70%・ロジウム30%を含む白金ロジウム合金+脚と白金94%ロジウム6%を含む白金ロジウム合金-脚とを組合せた熱電対です。耐熱性、機械的強度はR熱電対よりもすぐれ耐熱温度は1800℃までにおいても使用できます。 |
R | Pt-13Rh/Pt | 白金87%・ロジウム13%を含む白金ロジウム合金+脚と純白金-脚とを組合せた熱電対です。一般に酸化性雰囲気では耐熱性、安定性にすぐれた精度のよい熱電対です。還元性雰囲気あるいは金属蒸気中では極めて弱い傾向があります。 |
S | Pt-10Rh/Pt | 白金90%・ロジウム10%を含む白金ロジウム合金+脚と純白金-脚とを組合せた熱電対です。 |
N | Ni-Cr-Si/Ni-Si | ナイクロシル(+脚)ナイシル(-脚)と呼ばれ、K熱電対と組成及び特性が非常によく似た熱電対です。K熱電対の改良形でSiの添加量を増し、耐熱性を高めています。 |
K | Ni-Cr/Ni-AI | ニッケル及びクロムを主とした合金+脚とニッケルを主とした合金-脚とを組合せた熱電対です。工業用としても最も多く使用されている熱電対で酸化性雰囲気ではかなりの抵抗を示しますが還元性雰囲気には弱く、特に一酸化炭素や亜硫酸ガス、硫化水素などの雰囲気での使用は不適です。 |
E | Ni-Cr/Cu-Ni | K熱電対の+脚とJ熱電対の-脚とを組合せた熱電対です。温度に対する熱起電力が極めて大きく、酸化性雰囲気での使用に適しています。 |
J | Fe/Cu-Ni | 鉄の+脚と銅及びニッケルを主とした合金-脚とを組合せた熱電対です。還元性雰囲気には強く、水素や炭素に対しても丈夫です。酸化性雰囲気では鉄の酸化が早いので不適当です。価格も比較的安価なので中温用に適しています。 |
T | Cu/Cu-Ni | 銅の+脚と銅及びニッケルを主とした合金-脚とを組合せた熱電対です。300℃以下では高精度が得られ、とくに-200℃~+100℃の低温用に適します。弱い酸化性や還元性雰囲気にも適しています。 |
熱電対の許容差と各国適用規格一覧
規格種類 | JIS C1602 | IEC 60584-2 | ASTM E230 | |||||
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温度範囲 | クラス | 許容差℃ | クラス | 許容差℃ | 温度範囲 | クラス | 許容差℃ | |
B | 600℃以上1700℃未満 | 2 | ±0.0025|t| | 2 | ±0.0025|t| | 870℃以上1700℃未満 | STD. | ±0.5% |
600℃以上800℃未満 | 3 | ±4 | 3 | ±4 | ||||
800℃以上1700℃未満 | ±0.005|t| | ±0.005|t| | ||||||
R&S | 0℃以上1100℃未満 | 1 | ±1 | 1 | ±1 | 0℃以上1450℃未満 | STD. | ±1.5or ±0.25% |
0℃以上600℃未満 | 2 | ±1.5 | 2 | ±1.5 | SP. | ±0.6or ±0.1% |
||
600℃以上1600℃未満 | ±0.0025|t| | ±0.0025|t| | ||||||
N&K | -40℃以上+375℃未満 | 1 | ±1.5 | 1 | ±1.5 | 0℃以上+1260℃未満 | STD. | ±2.2or ±0.75% |
+375℃以上+1000℃未満 | ±0.004|t| | ±0.004|t| | ||||||
-40℃以上+333℃未満 | 2 | ±2.5 | 2 | ±2.5 | SP. | ±1.1or ±0.4% |
||
+333℃以上+1200℃未満 | ±0.0075|t| | ±0.0075|t| | ||||||
-167℃以上+40℃未満 | 3 | ±2.5 | 3 | ±2.5 | -200℃以上0℃未満 | STD. | ±2.2or ±0.2% |
|
-200℃以上-167℃未満 | ±0.015|t| | ±0.015|t| | ||||||
E | -40℃以上+375℃未満 | 1 | ±1.5 | 1 | ±1.5 | 0℃以上+870℃未満 | STD. | ±1.7or ±0.5% |
+375℃以上+800℃未満 | ±0.004|t| | ±0.004|t| | ||||||
-40℃以上+333℃未満 | 2 | ±2.5 | 2 | ±2.5 | SP. | ±1or ±0.4% |
||
+333℃以上+900℃未満 | ±0.0075|t| | ±0.0075|t| | ||||||
-167℃以上+40℃未満 | 3 | ±2.5 | 3 | ±2.5 | -200℃以上0℃未満 | STD. | ±1.7or ±1% |
|
-200℃以上-167℃未満 | ±0.015|t| | ±0.015|t| | ||||||
J | -40℃以上+375℃未満 | 1 | ±1.5 | 1 | ±1.5 | 0℃以上+760℃未満 | STD. | ±2.2or ±0.75% |
+375℃以上+750℃未満 | ±0.004|t| | ±0.004|t| | ||||||
-40℃以上+333℃未満 | 2 | ±2.5 | 2 | ±2.5 | SP. | ±1.1or ±0.4% |
||
+333℃以上+750℃未満 | ±0.0075|t| | ±0.0075|t| | ||||||
T | -40℃以上+125℃未満 | 1 | ±0.5 | 1 | ±0.5 | 0℃以上+370℃未満 | STD. | ±1or ±0.75% |
+125℃以上+350℃未満 | ±0.004|t| | ±0.004|t| | ||||||
-40℃以上+133℃未満 | 2 | ±1.0 | 2 | ±1.0 | SP. | ±0.5or ±0.4% |
||
+133℃以上+350℃未満 | ±0.0075|t| | ±0.0075|t| | ||||||
-67℃以上+40℃未満 | 3 | ±1.0 | 3 | ±1.0 | -200℃以上0℃未満 | STD. | ±1or ±1.5% |
|
-200℃以上-67℃未満 | ±0.015|t| | ±0.015|t| |
- (1)
許容差とは、熱起電力を規準熱起電力表によって換算した温度から、測温接点の温度を引いた値の許される最大限度をいう。
- (2)
ASTMの許容差は℃または測定温度の%のどちらか大きな値とする。
- (3)
|t|は+、-の符号に無関係な温度(℃)で示される測定温度である。
- (4)
クラス1、2、3は旧JISの0.4、0.75、1.5級に対応する。
- (5)
JIS、BS、DIN規格はIEC規格と同一である。
- (6)
ASTM規格は旧ANSI規格である。
- (7)
規格年度は最新版を適用する。
金属保護管の材質と標準寸法
種類 ( )内はJIS記号 |
材質記号 | 寸法(φmm) | 最大長さ (mm) |
常用使用温度 限界(℃)※1 |
特長 | |
---|---|---|---|---|---|---|
外径 | 内径 | |||||
304SS (SUS304) |
A | 10 | 7 | 2000 | 900 | 耐熱・耐酸・耐アルカリに優れる。硫黄・還元ガスに弱い。 |
12 | 9 | |||||
15 | 11 | 3950 | ||||
21.7 | 15.7 | |||||
316SS (SUS316) |
C | 10 | 7 | 2000 | 900 | 耐熱・耐酸・耐アルカリは304SSと変わらないが、高温においての耐食性は優れている。 |
12 | 9 | |||||
15 | 11 | 3950 | ||||
21.7 | 15.7 | |||||
316LSS (SUS316L) |
CL | 10 | 7 | 2000 | 900 | 316SSのCの量を少なくしたもので、耐粒界腐食性材料である。 |
12 | 9 | |||||
15 | 11 | 3950 | ||||
21.7 | 16.1 | |||||
310S SS (SUS310S) |
D | 15 | 11 | 3950 | 1000 | Ni-Crの含有率が高く、高温での酸化性に強い耐熱鋼である。 |
21.7 | 16.1 | |||||
27.2 | 21.4 | |||||
SUH446 | P | 21.7 | 16.1 | 3950 | 1000 | 27Cr鋼で耐熱・還元炎及び硫黄ガスに強い。 |
4C54 (SANDVIK P4) |
21.3 | 16 | ||||
26.9 | 21.6 | |||||
UMCo50 | U | 22 | 16 | 3950 | 1150 | コバルト基合金で耐熱・耐摩耗に強く、硫黄ガスにも強い。 |
27 | 21 | |||||
INCONEL600 (NCF600eq) |
B | 22 | 16 | 3950 | 1050 | 高温酸化・還元いずれの雰囲気で最も強い。 |
TITANIUM | T | 15 | 11 | 3950 | 250 | 低温における耐食性は極めて優秀であるが、高温では酸化されてもろくなる。 |
17.3 | 12.7 | |||||
21.7 | 16.1 | |||||
27.2 | 21.6 |
非金属保護管の材質と標準寸法
種類 | 材質記号 | 寸法(φmm) | 最大長さ (mm) |
常用使用温度 限界(℃)※1 |
特長 | |
---|---|---|---|---|---|---|
O.D.外径 | I.D.外径 | |||||
アルミナ質 | P1 | 8 | 5 | 1000 | 1500 | JIS R1401 PT1相当高温における酸化・還元雰囲気に極めて安定、高温での耐食性が優秀。1600℃以上の炉内温度、溶融金属の測定に適す。 |
10 | 6 | |||||
13 | 9 | |||||
15 | 11 | |||||
17 | 13 | |||||
20 | 15 | |||||
ハイ アルミナ質 |
P0 | 8 | 5 | 1000 | 1600 | JIS R1401 PT0相当耐熱・耐食・電気絶縁・機械的強度大。高硬度なので耐摩耗性に優れる。 |
10 | 6 | |||||
13 | 9 | |||||
15 | 11 | |||||
20 | 16 | |||||
15 | 6 | |||||
20 | 10 | |||||
炭化珪素 耐火物 |
GK | 20 | 12 | 1000 | 1600 | 耐火度が高く熱伝導率が大きい。亜鉛・アルミニウム・鉛・酸・アルカリに対して浸され難い。急熱・急冷に強く、耐スポーリング性に優れている。二重保護管用の外管に適する。 |
by25 | 17 | |||||
30 | 20 | |||||
35 | 25 | |||||
40 | 25 | |||||
45 | 30 | |||||
50 | 30 | |||||
60 | 40 |
※1常用使用温度限界はJIS及びメーカーカタログ等を参考に記載したもので、保証値ではありません。
素線径における使用温度の限界
熱電対種類 | 素線径 | 使用温度の限界(℃) | 適用保護管の寸法 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
記号 | 外径 | 常用限度 | 過熱使用限度 | 金属保護管(Φmm) | 非金属保護管(Φmm) | |
B | L | 0.5 | 1500 | 1700 | ー | 15×11 |
R | L | 0.5 | 1400 | 1600 | ー | 15×11 |
S | L | 0.5 | 1400 | 1600 | ー | 15×11 |
N | D | 3.2 | 1200 | 1250 | 21.7×16.1 | ー |
C | 2.3 | 1100 | 1150 | 21.7×16.1 | ー | |
B | 1.6 | 1050 | 1100 | 15×11 | ー | |
A | 1.0 | 950 | 1000 | 12×9 | ー | |
K | D | 3.2 | 1000 | 1200 | 21.7×16.1 | ー |
C | 2.3 | 900 | 1100 | 21.7×16.1 | ー | |
B | 1.6 | 850 | 1050 | 15×11 | ー | |
A | 1.0 | 750 | 950 | 12×9 | ー | |
H | 0.65 | 650 | 850 | 10×7 | ー | |
E | B | 1.6 | 550 | 600 | 15×11 | ー |
A | 1.0 | 500 | 550 | 12×9 | ー | |
H | 0.65 | 450 | 500 | 10×7 | ー | |
T | 0.32 | 300 | 400 | 10×7 | ー | |
J | C | 2.3 | 550 | 750 | 21.7×16.1 | ー |
B | 1.6 | 500 | 650 | 15×11 | ー | |
A | 1.0 | 450 | 550 | 12×9 | ー | |
H | 0.65 | 400 | 500 | 10×7 | ー | |
T | B | 1.6 | 300 | 350 | 15×11 | ー |
A | 1.0 | 250 | 300 | 12×9 | ー | |
H | 0.65 | 200 | 250 | 10×7 | ー | |
T | 0.32 | 200 | 250 | 10×7 | ー |
基本モデル
EXE:被覆熱電対
ガラス被覆熱電対で最も簡易な計測に向きます。素線径φ0.32、0.65を標準で在庫。
外径 B×A:約1.4×2.3(φ0.32)/約2.3×4.1(φ0.65)
EXS:被覆熱電対
FEP(4-6弗化樹脂)被覆熱電対で、簡易計測に向きます。素線径φ0.32、0.65を標準で在庫。その他に、超極細のφ0.06、φ0.1の素線径でPFA絶縁被覆した製品もあります。さらに先端を同材でモールドした絶縁形も製作できます。
外径 B×A:約1.1×1.7(φ0.32)/約1.7×2.8(φ0.65)
TC:碍子付き熱電対
最も基本的なモデルで、碍子(セラミック)で絶縁するため、高温での使用が可能です。屋内での使用に限定されます。簡易計測用またはTCWやTCGの交換用エレメントとして使用されます。
TCW:屋外形金属保護管付き熱電対
金属保護管に防滴形端子箱が付属したタイプで、屋外での一般的な環境での使用に適します。熱電対は碍子付きのものが組み合わさります。
TCP:屋外形非金属保護管付き熱電対
非金属保護管に防滴形端子箱が付属したタイプで、屋外での一般的な環境での使用に適します。高温用の R,Sタイプで使用されます。
TCG:耐圧防爆形金属保護管付き熱電対
石油精製や石油化学プラント等爆発生のガスの発生する恐れのある、危険場所での使用に適します。