保護管関連

温度計保護管強度計算

目次

TRANSITION OF THERMOWELL CALCUATION

1.保護管強度計算の変遷

 当社における温度計保護管の強度計算は、顧客が行った強度計算資料を基に手計算で行った1970年代から開始していたと思われる。その手法は、機械工学便覧等をもとに、固有振動数の計算や流体による強制振動数の計算、さらに流体による曲げ応力の計算等を行っていた。その後、ASME PTC19.3の資料を基に計算を行うことが海外向けのJOBで標準的になり、長い間その手法が主であった。
 ところが、1995年に発生したもんじゅのNa漏洩事故が、温度計保護管(さや管)の折損が原因であったことから急遽注目を浴び、1998年には日本機械学会(JSME)から強度計算の指針が発行された。この指針にはカルマン渦のみの評価では無く、もんじゅでの保護管折損原因とされた対称渦による共振計算を含んでいる。現在も、国内ユーザの多くは、本指針によって強度計算を実施している。
 さらに、2010年には米国機械学会(ASME)から、PTC 19.3の改訂版としてPTC 19.3 TW-2010が発行され、JSMEと同様に対称渦の評価を可能とした。
 以上の背景をもとに、過去から現在に至る強度計算手法の変遷を記す。

(1)1960年代:国内火力発電所
 国内の火力発電所で、1960年前後に主蒸気ラインでの保護管折損が発生、次に述べるASME PTC19.3とほぼ同一手法で、外圧強度検討、流体による曲げ強度検討、保護管の固有振動数fnとカルマン渦による強制振動数fsによる共振検討の3種の評価を行い原因を追及した。いくつかの評価結果があるが、共通して言えるのは、割と高密度(30kg/m3)の流体の時に、カルマン渦で共振して折損している点である。

(2)ASME PTC 19.3-1974
 1959年に発行された、J. W. Murdock 著のレポートであるPower Test Code Thermometer Wells/ Journal of Engineering for Power, Trans. ASME, vol.81,1959,Oct 誌(2)に掲載されたテーパ保護管の固有振動数fnの計算式を元に、保護管の後流に発生するカルマン渦による強制振動数fsと比較して、一致しない条件を求める。通常は、ASME PTC 19.3 と呼ばれているが、この内容は温度測定全般にわたるテキスト「Performance Test Code – Part 3 : Temperature Measurement」(1)で、その中のわずか4ページが保護管の強度計算に関する記述である。
 当社は、本手法で強度計算を実施してきたが、顧客の要望により以下に示す独自の手法を追加してきた。

  • a)

    軽いガスの場合、共振時の応力が小さいため、共振領域を超えて使用可能1.4< fs/fn

  • b)

    高粘度流体の場合、抗力係数CDが大きくなることを考慮し、Re数の関数としてCDを計算、その結果高粘度でも曲がらない保護管の設計が可能になった。

(3)JSME S012-1998
 「もんじゅ」での保護管折損事故を契機に、1998年に日本機械学会から発行された強度計算の指針がJSME S012-1998 配管内円柱状構造物の流力振動評価指針(4)である。従来の強度計算はカルマン渦の評価のみを行ってきたが、この指針では対称渦によって生じる抗力方向の共振も評価可能である。計算のベースはASME BPVC SEC.III N-1300(3)である。評価手順も従来のものと大きく異なって見えるが、基本的な評価は保護管の固有振動数と強制振動数の比であり、そこに流体密度に関する評価が加味されている。
 新たな概念である、換算流速Vrと、換算減衰率Cnを元に評価、判定しているがVrは振動比fs/fnとストローハル数Stで決まり、Cnは流体密度ρ、減衰係数比ζ及び保護管質量mで決まる無次元数である。本指針においては、対称渦による抗力方向の共振はfs/fn=0.4~0.6(Vr=2~3)、カルマン渦による揚力方向の共振はfs/fn=1(Vr=5)で発生するため、流体密度によってそれぞれの共振領域近傍での使用を回避するように判定している。
 すなわち、下記条件のいずれかを満たすことが使用条件である。
 ・Vr < 1 (Cn ≦ 2.5の場合)
 ・Cn > 64
 ・Vr < 3.3 及び Cn > 2.5
 振動比で表すと、高密度流体(Cn ≦ 2.5)の場合はfs/fn < 0.2(Vr < 1)を満たし、中密度流体(Cn > 2.5)の場合はfs/fn < 0.66(Vr < 3.3)を満たし、低密度流体(Cn > 64)の場合は、共振しても応力が極めて小さいので問題は無いとしている。

同期振動回避・抑制条件(JSME S 012抜粋)の画像 図 同期振動回避・抑制条件(JSME S 012抜粋)

(4)ASME PTC19.3 TW-2010(5)
 2010年に米国機械学会が、従来のASME PTC19.3:1974の改訂版として発行した文書で、新たな文書として一から詳細に書き換えられている。
 本規定では、従来の計算手法とは大きく異なり、JSME S012と同様に対称渦による抗力方向の振動を評価するようになった。カルマン渦による揚力方向の力をTransverse force、対称渦による抗力方向の力をIn-line forceと呼んでいる。図 流体により受ける力 参照。

流体により受ける力の画像 図 流体により受ける力

 但し、計算手法と評価方法はJSMEとは大きく異なる。以下に改訂版の特徴を記す。

  • a)

    スクルトン数NScを導入、JSME S012における換算減衰率Cnと同じ概念であるが、計算に用いる減衰係数比ζの値がJSMEより一桁小さいため、計算結果と判定結果はJSMEと大きく異なる。

  • b)

    抗力方向(In-line)の共振の評価を行っているが、抗力方向の強制振動数をカルマン渦数の1/2としており、抗力方向の共振点をfs/fn = 0.5としている。その結果、抗力方向の共振時の応力が許容値を超えた場合は、高密度流体に対する使用可能振動比領域をfs/fn < 0.4としており、JSMEの判定では使用不可となる共振領域を使用可能としている。(NSc ≦ 2.5 または Re ≧ 10^5の場合)

  • c)

    抗力方向の共振時の応力が許容値を超えない場合は、fs/fn < 0.8を満たせば良いが、抗力方向の共振を回避するため、振動比0.4 < fs/fn < 0.6を避けるよう推奨(NSc>2.5 および Re<10^5の場合)。その結果、使用可能な条件は大幅に狭まっている。

  • d)

    固有振動数の計算手法を大幅に改訂し、固有振動数の計算精度が高まり、実際の固有振動数に近づいた。

流力振動による共振領域の画像 図 流力振動による共振領域

 以上の様に、ASME PTC19.3 TW-2010の判定基準がJSME S012と異なるため、ASME PTC19.3 TW-2010の計算結果で使用可能となっても、JSME S012の計算を行うと使用不可となるケースがある。例として、もんじゅで折損した保護管の強度計算を行うと、JSME S012では使用不可となるが、ASME PTC19.3 TWでは使用可能の判定となる。以上の計算手法の比較を、「保護管の渦励振に関する強度計算手法比較」に示す。

VORTEXWELL DESIGN

2.らせん棒付き保護管の効果に関する技術的背景

(1)はじめに
 温度計保護管を各種プラントで用いる場合、最近は保護管後流に発生するカルマン渦等による共振を評価する「強度計算」を実施することが増えてきている。その結果、運転条件によっては保護管の寸法や取付方法を変更する必要が生じるが、流速が早すぎる場合に、保護管寸法の変更や取付方法の変更では条件を満たさないケースがある。
 以前は、カラー付き保護管で対応することもあったが、カラー付きの場合は実固有振動数が不明確であり、さらに相手側ノズルの内径が設計通りで無い場合、現場で取り付けられないケースもあった。さらに、最近発行されたASME PTC 19.3 TW-2010において、カラー付きは推奨しないと明言されたため、現在はほとんど採用されていない。
 当社は、以前より顧客の提案によりらせん棒付き保護管を製作してきたが、その効果に関し技術的裏付けを求められるようになったため、各種文献類の調査や、実流体での試験の実施を含め、理論的な解析等を積極的に行ってきた。以下に、らせん棒保護管を採用した経緯から、当社の行った実流体による実験の結果及び理論解析を報告する。

らせん棒付き保護管の画像

(2)採用の経緯
 らせん棒による対策は某顧客の社内規格に紹介されていることから採用がスタートした。その後、JSME S012指針に、カルマン渦防止手法として紹介され、さらに、下記の論文に掲載の実験結果とBS規格に示された煙突への適用寸法・形状を元に、当社ではらせん棒を設計し、採用することとした。その後、「空気中(煙突用)のみでなく、液体中でらせん棒が有効である確証データは?」との問い合わせに応え、当社は、らせん棒付き保護管に対し、液体を用いた流力実験を行った。

1)JSME S012-1998「配管内円柱状構造物の流力振動評価指針」のB84頁

カルマン渦防止手法の画像 図 カルマン渦防止手法

2)煙突に採用された渦励振抑制用螺旋板
 「自立型煙突に用いる渦励振抑制用螺旋板の効果に関する実験的研究」日本建築学会構造系論文報告集 第354号 1985年8月、島田忠幸(IHI)、原公(IHI)、石崎潑雄(京都大学)本論文の実験結果に示すように、螺旋板を取り付けることで、カルマン渦による共振を抑制していることが判る。最近の煙突には、渦励振防止用にほとんど螺旋板が取り付けられており、多くの実績が有る。

論文内容の抜粋の画像 図 論文内容の抜粋

3)BS 4076: 1989  Specification for Steel chimneys
 BS規格に制定された、煙突に設けられる螺旋板の形状や寸法の規定。内容は(6)の論文とほぼ同一である。(JSME S012にも紹介されている)

Hight of side plate : 0.1 - 0.12D (D: Cylindrical diameter)
Number of side plate : 3 spirals
Pitch of parallel winding side plate : The 5D (it winds, suitable to the angular 58°)
Istallation range of the side plate : In range of top 1/3 of cylindrical condition structure installation
Drag coefficient : Cd=1.2

(3)実験的検証
 当社における実験結果を以下に示す。国内外どちらの実験においても、対称渦はfs/fn=0.4近傍で観察されたが、らせん棒付き保護管ではその影響は認められなかった。

1)玉川大学における水流実験
 2006年8月、玉川大学の流力振動実験設備を借用し、実際に水を流した条件で、らせん棒の効果を確認した。ビデオを用いた撮影や保護管上部での変位を計測した結果、水中においても、らせん棒の効果が充分に発揮されることが確認出来た。この実験結果は「配管技術」誌2007年8月号に掲載された。
 カルマン渦に関しては、国内でのみ再現実験を実施し、らせん棒の無い保護管は割と短時間で保護管が破断することが確認出来た。カルマン渦共振時は、根元に過大な応力が加わるため、根元にクラックが発生すると固有振動数が変化し共振は止まる。
 らせん棒付き保護管は、無いものと比べるとカルマン渦によってもほとんど共振しないが、共振点において僅かに振れることが確認された。そのため、高密度流体の場合はらせん棒を付けても振動比fs/fn<0.8での使用を推奨とした。

玉川大学の試験装置全体図と装置写真の画像 玉川大学の試験装置全体図と装置写真の画像 図 玉川大学の試験装置全体図と装置写真

2)TUV SUD NEL, Glasgow, UKによるオイルを用いた実液流し実験
 英国の試験機関に依頼した実験は途中で中断した。理由は対称渦による共振で抗力方向にのみ設置されていた歪みゲージが破損したためであるが、振動比fs/fn=0.47近くまで流速は上げられた。その結果、対称渦による共振振幅の最大値は振動比fs/fn=0.4近傍にある事が確認でき、JSME S012の指針に示された、抗力方向の振動による変位特性が実証された。らせん棒付き保護管の場合、対称渦による応力上昇は認められず、計算による静的応力値に近い値が歪みゲージで検出された。

TÜVの試験装置の画像 図 TÜVの試験装置

オイルによる流力実験結果の画像 図 オイルによる流力実験結果

JSME S012 円柱の振動形態の画像 図 JSME S012 円柱の振動形態

(4)理論的検証
 以上に示した文献類や実験の結果の他、英国のCygnet Development Services Ltd.に対し、通常のくり抜き保護管とらせん棒付き保護管の比較CFD(Computational Fluid Dynamics)解析を依頼した。報告書によると、結論の要約は、「螺旋リブを追加すると、サーモウェルの周りの渦の誘起を著しく軽減することが観察された。具体的にモデル化をした場合について、規則的な渦の挙動はなかった。このことは、螺旋リブは渦放出の挙動を軽減するということを見出している他のすべての論文と一致する。図−7に流線の比較を示す。

CFD比較した保護管の画像 図 CFD比較した保護管

CFDによる流線の比較の画像 図7 CFDによる流線の比較

【資料ダウンロード】TD-1469らせん棒保護管技術資料.pdf:本資料のPDF

参照文献

  • (1)

    ASME PTC 19.3 PART 3 Temperature Measurement/ Instruments and apparatus

  • (2)

    Power Test Code Thermometer Wells / J.W. Murdock , Journal of Engineering for Power, Trans . ASME, vol.81, 1959.Oct. /P407-P409

  • (3)

    ASME BOILER & PRESSURE VESSEL CODE SECTION III DIVISION 1 APPENDICES APPENDIX N-1300

  • (4)

    JSME S 012-1998 配管内円柱状構造物の流力振動評価指針

  • (5)

    ASME PTC 19.3 TW-2010 Thermowells Performance Test Codes

  • (6)

    自立型煙突に用いる渦励振抑制用螺旋板の効果に関する実験的研究、日本建築学会構造系論文報告集、島田、原、石崎、昭和60年8月

  • (7)

    流力振動の検討と対策、(株)岡崎製作所、風岡・西條・道ノ下、日本工業出版、配管技術、2007年9月号

  • (8)

    Computational Fluid Dynamics Modeling、Cygnet Development Services Ltd、T.Oakes、23/06/2008

  • (9)

    THERMOWELL VALIDATION TESTS VortexWell, Evaluation Report : E 1937 X 12, TÜV SUD NEL, Glasgow, UK

  • (10)

    温度計保護管の妥当性確認試験、Evaluation Report : E 1937 X 12, TÜV SUD NEL, Glasgow, UK((7)の和訳)

  • (11)

    もんじゅ温度計ウエルの流動励起振動に関する水流実験、JAERI-Tech 96-028、日本原子力研究所

備考:参照文献(7)~(10)は当社の流力試験結果報告書です。興味のある当社の顧客(取引先)には開示予定ですので、お問い合わせ下さい。当社の顧客以外の方や、競合先と思われる方には開示致しませんのでご了承下さい。(11)はWEB上で入手可能です。

3.二相流での保護管振動について

 2012年春に、ある石油精製プラントにおいて、カルマン渦対策としてらせん棒を取り付けた保護管が共振する事象が発生した。設計条件を確認すると、流体は気体と液体の二相流であり、高流速条件であったため「らせん棒」を取り付ける事で、振動対策とした製品であった。 現地で振動状況を確認すると

  • (1)

    振動方向は流れと同一方向のインライン振動であった。直角方向の振動は微弱である。

  • (2)

    振動レベルはかなり激しく、装着されたシース熱電対の表面が保護管内部と接触し、かなりの傷跡が観察された。運転開始後1~2週間レベルであった。

  • (3)

    2種類の異なった形状の保護管、使用条件で振動が確認され、振動周波数はどちらも保護管固有振動数近傍であり、外力による共振状態と思われた。

  • (4)

    液体と気体の流量比は、質量流量比GL/GV=10.7とGL/GV=4.6、容積流量比QL/QV=0.11とQL/QV=0.08であり、平均密度は81.5kg/m3と63.3 kg/m3であった。

 以上の結果を踏まえ、文献調査を行った。その結果、二相流に置かれた円柱に関し、【1】の文献に、「二相流による振動」の項目があり、そこには以下の記述が見受けられた。
 「一方、流れ方向の振動では、ボイド率が大きいと単相水流中の場合より大きい振動が発生する」 二相流中における保護管の場合、詳細な条件は不明であるが、二相流の条件によっては流れ方向での保護管共振の要因となり得る可能性がある。図−Aに気液二相流における共振(ロックイン)を示した図を掲げる。

気液二相流でのロックイン 図−A 気液二相流でのロックイン

 同一文献に、二相流の流動様式は図−Bに示したものがあると紹介されているが、管内での実際の流れに関してはどれになるのか全く予測できないのが実情である。もし、図に示されたスラグ流やフロス流が管内を流れた場合、保護管には流れ方向に不連続的に液体が当たり、その周期が保護管の固有振動数の整数倍、または整数分の1で有るとすると、保護管は共振することがあると考えられる。

 以上の結果より、二相流におけるカルマン渦強度計算は流動様式の状態によっては全く意味が無く、保護管後流に発生する渦によって振動が発生するのではなく、流れの状態によって、液相が非連続(間欠)的に保護管に当たる事で振動が発生することが予測される。
 さらに、その後の検証の結果、二相流中で使用していた全く別の保護管が曲がっていたが、二相完全混合との仮定の計算流体密度でカルマン渦計算を行うと、振動比fs / fn <0.8で、渦励振による計算上は使用に耐える結果となっていた。保護管は曲がっていたが、曲げ応力も許容値以下であった。
 以上の結果から、二相流の場合、流れの様式によっては液体のみの流れが直接保護管に当たる事があると思われ、流速によっては予想外の荷重を受ける事が予測される。さらに繰り返し当たる事で、保護管後流に発生する渦による共振とはメカニズムが異なる共振が発生する恐れがあるため、本書で説明するカルマン渦や対称渦の強度計算手法では対応できないといえる。
 当社が実施する二相流に対しての強度計算は、完全混合した平均密度での単相流と仮定して扱っているため、その計算結果は参考用に過ぎない事を理解する必要がある。使用に際し十分な注意が必要である。

二相流の流動様式 図−B 二相流の流動様式

強度計算書へは下記の表記を行う。
・和文:
二相流の計算は、平均密度での単相流と仮定しているため、その結果は参考用とみなして下さい。
・英文:
Since calculation of a 2 phase flow assumes that it is a single phase flow in mean density, please consider that the result is an object for reference.

参照文献
【1】事例に学ぶ 流体関連振動 日本機械学会編 技報堂出版